炭水化物子の墓場コレクション①
三十◯歳、ヘテロセクシュアル、インド在住で彼氏が欲しいのに全然できなくて困っている炭水化物子はある日飲酒時に悪いお姉さんにそそのかされ、有名な出会い系アプリTinderをインストールした。
10日間狂ったようにスワイプし続けたのち、マッチした人の中から最終的にそこそこまともそうな3人に絞って会ってみることにした。
インド人には珍しくカメラや音響機器やダフトパンクやKポップが好きでロン毛のイケメンDさんとはLINEを交換し(なんとLINEをやっていた)、インドの文化について教えてもらったりしてLINEは2〜3日にいっぺんくらいのペースになり、かなり仲良くなっていた。
DさんはTinder上でプロフィールにInstagramのアカウントをリンクさせていた。
もう一度言うが、Dさん(のプロフィール写真)は結構オシャレなイケメンだった。
私はすごく楽しみにしながらインスタへ飛んだ。
そこには、プロフィール写真から30年分経年劣化させて清潔感とオシャレ感をそれぞれ100分の一にした感じのKポップおじさんがたくさん写っていた。
インド人だから、すぐにバレる嘘をつくのは普通。私には友情があったので平気だった。正直彼氏候補からは外さざるを得なかったが、いい友達ができたからまあこれはこれでいいじゃん、と思った。
日本からアート系の友達が遊びにきたときに、Kポップおじさんはインドの文化に詳しいからいろいろ教えてもらおうということで3人でカフェで会うことにした。
Kポップおじさんは、Looking for troubleというロゴのついたTシャツを着て登場した。
Kポップおじさんは私がキレそうになるほどおしゃべりが止まらない人だった。総会話量の9割をおじさんのおしゃくそトークが占め、しかもちょいちょい謎の上から目線発言が更にイラッとさせてくれた。
例: 「え、アバター(映画)見てないの?ワーオ…ビックリだな…ププッ」 等
Kポップおじさんは、Tシャツに書いてアピールしちゃうくらい、人間関係のTroubleが欲しくて欲しくて仕方ない人のようだった。
日本から来た友達は、Kポップおじさんの脈絡のないトークショーと、私が堂々とイラついている事両方にちょっと引いていた。
帰りはKポップおじさんのホンダシティで送ってもらった。車中で、「インドの保守的な社会では女性の飲酒は許されないため、私の女性の同僚はほんとは飲酒するけど、ほかの同僚の前ではかくしている」という話をしたら、Kポップおじさんは「お前の同僚がクソなんだよ」というクソ発言をした。
違う価値観を持っている人に対して、自分の価値観が優れているとか、自分は違うとか思うのは簡単に優越感に浸れる方法であるが、保守⇔リベラル の対比等でどれを選ぶかは環境や知識によるものであり、それが人の良し悪しを決めるものではない。みんな、色々あるのである。
血圧が上がったのがわかった。私は、大切な同僚がこんな気持ち悪いおじさんに蔑まれたことがどうしても許せなかった。
私は盛大にブチ切れていくつか悪態をついて車を降り、口を閉じてくださいとLINEしたあとブロックした。
本事象が、Kポップおじさんの探しているトラブルであったのであれば幸いである。
自宅へ到着後、私はここぞという時に飲もうと大切に保管していたとっておきのシャンパンとワインを友達と空けた。