炭水化物子のありふれた世界

インドでのありふれた日々を発信しています。ツイッター→@tansuikabutsuk0

炭水化物子の墓場コレクション④

Tinderをやめた私は、スワイプ疲れ、スワイプへの絶望、日常でのちょっとした事等が重なって少しだけ落ち込んでいた。

 

とある金曜の夜、自宅で洗濯をしていると私が少し落ち込んでいる事を知っていた悪いお姉さんからメッセージが来た。

「今友達と飲んでるんだけど、暇ならおいでよ!」

悪いお姉さんは本当に優しい人なのである。さり気ない気遣いがとても嬉しかった。金曜の夜も土曜も日曜も暇だった私はすぐにその飲み会に向かった。

 

会場に着くと、数名の男女がいい感じに盛り上がっていた。空いている席に座ると隣のインド訛りでない綺麗な英語を話すインド人、Bさんが話しかけてくれた。Bさんは長くヨーロッパに住んでいたが、今はインドに戻って仕事をしているとの事。悪いお姉さんによるとBさんはものすごくお金持ちらしい。とてもフレンドリーな人で、悪いお姉さんと私を二次会に誘ってくれた。

 

これが、地獄の幕開けだったとは私は知る由もなかった。

 

二次会で、仕事で20代のうちにヨーロッパに行きそこで現地の女性と結婚し、結婚は破綻しているが今も送金をしている事、インドへ戻ってから彼女が出来ても結婚しないと決めている事、インドで孤児院を支援している事等、20歳ほど年上のBさんの身の上話を聞いた。とても面白かった。夜も遅くなってきたところでバカな私は電話番号を交換し、解散した。

 

次の日から、グーグル翻訳を駆使した日本語ローマ字の長文メッセージが来るようになった。


ものすごく読みにくいし面倒くさかったが、最初はなんとか頑張って返信していた。


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メッセージはいつの間にか英語に戻っていたがどういうわけか、だんだん量が増えていき、

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威勢のいいメッセージ→返信もしないうちになぜか平謝り といったパターンが多くなってきた。

 

少し不審に思いつつ実害もないしまあいっか…。とバカな私は特に気に留めてもいなかったある日、お誘いが来た。

 

「時々ヨーロッパのアレが食べたくなって、5スターホテルに、ヨーロッパのレシピで特別に作らせているんです。よかったら悪いお姉さんと炭水化物子さんをヨーロッパディナー招待したいのですが、如何ですか。」

 

重複するが、私、炭水化物子はバカである。Aさん(前記事参照)を知能が低いとか言ってdisったが、私も負けず劣らずバカである。自分がバカだという事を心底わかっているからこそ、他のバカがどうしても許せない(同族嫌悪)。

 

私は食い意地が張っていてケチなバカなので、全てを忘れてタダメシに飛びついた。

行きますと二つ返事をしたあと、ヨーロッパの料理をGoogle検索してヨダレを垂らしたりしていた。

 

私は本当にバカである。

 

待ちに待ったタダメシの前日、いつものように大量のメッセージが送られてきたが、この時だけは少し違った。

 

 


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Bさんの手作りプロモーションビデオが送られてきた。

 

曲に合わせてノリノリで一緒に歌っているBさんが映っている。たまにアップになったり、引きになったりリズムをとる右足がアップになったりしていた。一体、誰が撮影したのか。

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最後の決めポーズ!
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私はバカなので、ここにきてようやく震え上がった。

この人…おかしい。

気づけば、もうディナーは明日に迫っており本当に怖かったが今更ドタキャンするのも怖かった。

そして、結局時間通りに会場へ向かった。(何処かでタダメシを諦められない自分もいた。)

 

すると、何と悪いお姉さんは30分程遅れて来るという。私は恐れ慄いた。絶対にBさんと二人になりたくない。見つからないよう、咄嗟に女子トイレに隠れた。

悪いお姉さんによると、Bさんの友達も来るという。インド人の来る来る詐欺に慣れている私は、友達が来ているかどうかBさんに確かめた。


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友達が来ているか聞いただけで取り乱すBさん。

それに、やっぱり来ていなかった。騙されて出ていかなくて良かった。

本当はすぐそこのトイレにいるのだが、悪いお姉さんにトイレに迎えに来てくれるようお願いし、一緒に遅れて来るという設定にした。

 

悪いお姉さんも無事トイレに到着し、一緒に会場へ向かった。Bさんはノープロブレム、と言いながらもう日本人は信用しない、とか何とか言っていた。

 

 

席に付くなり、「付き合いたい」と言われた。

 

私は咄嗟に、「ムリーーーーーー!!」とお返事してしまった。

 

 

この後のBさんは凄かった。

 

総会話量の9.8割をBさんの身の上話が占めているうえ、話しながら思い出して本気で泣き出したり、本気で怒り出したりしたかと思えば突然ヘッドフォンを取り出して「オレ今音楽聞くから二人で喋ってていいよ」と言って装着、その時間だけはお姉さんと会話ができるシステムが出来上がっている…という地獄であった。

あのプロモーションビデオは笑わせようと思ったのか、本気で作ってしまったのか、誰が撮影したのか等だけは聞こうと思って発言しようとしたが、「あのビデオは…」あたりで既に振り切れているBさんがめちゃくちゃ喋るため、結果質問すらできず、疑問のまま終了した。ただ、「いいねくらい言えよ!」と言っていたので、私がコメントしなかった事については怒っているらしかった。

 

8時に始まって、地獄のトークショーが終わったのは1時だった。

 

タダメシもらっても余りある地獄だった。ディナーはとても美味しかったが何故か半分も食べられなかった。

 

タダより高いものはないとはよく言ったものである。

 

1時に解放され、憔悴しきった悪いお姉さんと私は、帰り道でごはん美味しかったけど本当に疲れたね…と声を掛け合った。私より年上のお姉さんは、そこで含蓄のある発言をした。

 

「孤独感って、醗酵して毒気に変わるのよ…」

 

Bさんはもともとウン十年前のインドでヨーロッパに駐在するほどのエリートで、優秀な人だったのである。友達もたくさんいた。しかしいろいろあって孤独感がMaxになってしまい、Maxになった孤独感は醗酵していき…ものすごい毒気を放っている今に至る。

ここ数年、私だけでなく、いろんな人とよくトラブルを起こしているらしい。

 

しかし、そんなBさんの苦労や本当はいい人である事を知っているので、悪いお姉さんはBさんに優しい。器がデカイとはこういう事であると思う。私は器が小さいため恐らく一生Bさんに優しくしてあげる事はできないが、本当に憧れる。

 

この日、私は絶対に彼氏を作ろうと決意した。