炭水化物子の墓場コレクション③
Aさんは、ものすごくオシャレでイケメンだった。職業はカメラマン、30代前半。
AさんもTinderにInstagramのアカウントをリンクさせており、あまり期待せずにチェックした。カメラマンだけあってかなりの量の写真を上げていて、Aさんの写真も多々あったがどの写真も問題なくオシャレでイケメンだった。(自撮りもたくさんあるがインド人なので普通)
チャットで少し話したあと、電話で話す事になった。電話で話したAさんは知能が低そうだった。イケメンのAさんでも男性はTinderで女性とマッチするのが至難の業だそうで、マッチした、しかも先進国の外国人と…と言う事でかなりテンションが上がってしまっており、会ったこともないのにいきなり「手料理を作ってくれ!!」と言ってきたり、何かの流れで友達になってから好きになるまで時間がかかると言ったところ、「どのくらい!?いつ!?」とちょっとおバカな質問をする、理想のデート(スクーター二人乗りで公園に行く)について語る…など、30も越えた青年と話しているはずなのだが、高校生と話してるみたいだった。ちょくちょくイラッときて、「え、タダメシが食べたいんですか?」とか、「いつって、何がですか?」とか冷たく返してしまったが知能が低いのであまり伝わっていないようだった。でも、悪い奴ではなさそうであった。
天は二物を与えず とはよく言ったものである。
イライラしながらも、Aさんがイケメンであることは常に頭に入っていた。自分を偽る必要はないが、私にもう選ぶ権利などほぼ残されていない事だけはよくわかっている。テンションがブチ上がっているAさんと会いましょうという流れになるのに時間はかからなかった。
どこでいつ会うか、決めるだけなのにすごくイライラした。
何で待ち合わせ場所が橋の下なのかもよくわからないし、断っても断っても3回も迎えに来ると言われた。Tinderやってるよく分からないインド人に自宅の場所を教えるのとか絶対に嫌だった。Google mapリンクを送って、ってただそれだけなのに何回も何回も同じ事を言わなければいけないのがストレスが溜まる。
結局橋の下ではなく普通のカフェで会うことになり、既に疲れていたが会場に向かった。
Aさんは本当にイケメンだった。写真と全く同じだった。
知能は相変わらず低そうだったが、本当にイケメンなので全然イライラしなかった。頭は悪いが性格は悪くない。
ありだった。
その日は体調が悪かったのでお茶をしただけで、今度映画に行こうという約束をして帰宅したが、いい気分だった。
しかし、帰宅してしまうと同じようにまたテキストメッセージでやり取りする事になり、(イケメンの)顔が見えないため、知能の低さによる質問への回答のずれなどでいちいちイライラする事を抑えきれなかった。
イラッとする度にインスタストーキングを繰り返し、Aさんが本当にイケメンであることを忘れないように頑張った。
しかし、その日は突然やってきてしまった。
インスタに廃墟をバックに歩いているAさんの写真がアップされていた。悪夢のキャッチコピーつきで。
"Hipster mode on!!"
うわ…だっさーーーーーーー
こんなに短いのに、こんなに攻撃力のあるキャッチコピー(?)のセンスが、なんかもう全力で無理だった。何も言わなければ普通にオシャレ風写真なのに、このキャッチコピーがついただけですごいキモくなっていた。
どうしても希望を捨てきれなかった私は自分がおかしいのかもしれないと思い、絶大な信頼を置く同僚の壮絶努力子にAさんのインスタを見せた。
壮絶努力子は、破壊力抜群の短いキャッチコピーを音読しながらうわぁ…という顔をした。
私は、Tinderをアンインストールし、アカウントを削除した。
ちなみに、"Hippie mode on!!"もあった。
この2種類以外のモードはないらしい。