炭水化物子のありふれた世界

インドでのありふれた日々を発信しています。ツイッター→@tansuikabutsuk0

炭水化物子の墓場コレクション⑤

Bさんに醗酵(前記事参照)の恐ろしさを見せつけられ、自分もずっとひとりだとああなってしまうのではないかと心底怯える日々を送る炭水化物子は、友人・知り合い・信用できそうな人にはすべからく彼氏募集中であることを公表し、携帯電話の写真加工ツールを駆使して5割増しにしたお見合い写真をばら撒いたうえ拡散まで希望し、各方面でとにかく候補者を紹介してくれるように頼んでいた。

 

炭水化物子の思いを汲み取った友人たちは、何故かこんな私のために皆頑張って男を探してくれた。

 

そんなある日、友人から真面目そうでかつまともそうな好印象のインド人青年の写真が送られてきた。

 

「同じ都市ではないが隣州(近い)在住、7歳年下、日本人も顧客に持つ某企業のマネージャーTさん。なんとその日本人のお客さんからの紹介。日本にも行ったことあって、日本好きだって。どう?」

 

日本人からの紹介で、しかも親日というのは信用が置けるという点でかなりポイントが高い。私の中で日本人からの評価が高いということは、約束を守るとか、遅れるときは連絡するとか、聞かれたことを答えられるとか、3行以上のメールが読めるとか、初対面の人に突然学歴や住所や年収や家賃を聞かないとか、人のペンを気に入ったからといって勝手にポケットにいれないとか、そういう事だからだ。

 

また、日本人=金持ち=ぼったくり先と脳内変換されているインド人を何人も見てきた炭水化物子は真の親日インド人はそうそういないことも、そのありがたさも、自分に選ぶ権利がもはやほぼ残されていない事と同じくらいよくわかっていた。

 

しかも、同業だった。

運命かもしれないと思った。

 

やはり、友人の紹介は鉄板である。

 

「7歳上だけどいい?ていうか、是非よろしくお願いします」と即答した。

 

因みに、概して日本人はめちゃくちゃ若く見える(インド人にとっては)。インド人は無茶苦茶老けて見える(日本人にとっては)。見た目年齢が同じになるには、だいたい10歳くらいの年の差が必要である。なので、恐らく見た目年齢は7歳年上の私がむしろ下か、同じくらいなので違和感はないだろうと思った。

 

友人の隣州のお客さんまで炭水化物子が必死である旨が伝わっているなんて、有難い話である。本来無関係であった人まで、炭水化物子のために男を探してくれている。

 

その某お客さんから、数分後に電話がかかってきた。

お「あ、炭水化物子さん?隣州のお客さんです初めまして。」

炭「あっ初めまして、この度はありがとうございます。実は先日の展示会で隣州のお客さんに会ったことあるんですよ、名刺も頂きましたよ」

お「えっほんと?覚えてないわぁウフフごめんね。炭水化物子さん、インド人本当に大丈夫?インドどのくらいいるの?あ・・そう。7歳も年下?そうね、実は本人に聞いたんだけどOKだって。だから、炭水化物子さんが、私年上だし・・って変に気にしなければ大丈夫よ。Tは、日本好きだし、すごくいい子なの。Tとは家族ぐるみで仲良くしてるんだけど、実は叔父さんが某インド政府関係者で政府とのコネはバッチリよ。お母さんが調子悪くて、早く結婚したいみたい。家もしっかりしてるし、政府とのコネは本当に大丈夫」

炭「そのコネいつ使うんですか」

お「ほら、インドってそういうとこじゃん?炭水化物子さん、かわいいから大丈夫だと思うフフ。」

 

おじさんのはずなのだが、お世話好きのおばちゃんみたいなおじさんであった(褒めている)。

 

このおばちゃん(みたいなおじさん)はいろいろよく分かってることがひしひしと伝わってきた。覚えてない炭水化物子のことを可愛いと言ってのけるおばちゃん(みたいなおじさん)の適当さはピースでしかなく、私はこのおばちゃん(みたいなおじさん)に私のお見合い任せるわ・・!という気持ちでいっぱいになった。

 

おばちゃん(みたいなおじさん)との電話で心が温かくなった後、すぐにTさんから電話がかかってきた。なんと来週私の住んでいる町に出張で来るから会いましょうとの事だった。金曜の事だった。

 

とんだ上玉が来た・・・私はなんてツイてるんだろうと思った。そして各地で(初対面の人にまで)お見合いすることを言いふらした。

忘れていないと思うが、私、炭水化物子はバカである。

 

今なら胸を張って言える。ここは、インドである。そして、そのことを一瞬でも忘れてしまった私はバカである。

 

インド人なので当日の午後に言ってくるだろうと思っていたら、木曜の夜に「明日そちらに行くので会いましょう」とメッセージが来た。それまで何の連絡もなかったが、前日に連絡をくれるとは上出来である。

「わかりました。私はこのエリアで働いていて、お昼休みか仕事終わり空いています」と返事をした。

すると、Tさんから電話がかかってきた。

T「朝からそのエリアとは逆方面に行くので、お昼は難しそうです。夜、あなたの家で飲みませんか?

 

私は、耳を疑った。というか、聞き間違いをしたのだと思った。

 

炭「すみません、聞こえませんでした。えっと、ディナーでも行きますか?」

T「そうですね、場所は明日決めましょう、終わる時間も確定してないので、また明日連絡しますね」

そんなわけないよな・・・なぜかそういう風に聞こえたが文脈が合わなすぎるので何かの間違いだろう。

明日の待ちに待ったお見合いを楽しみにしながら就寝した。

 

次の日の午後、Tさんから連絡がきた。

「〇時に、あそこのスタバでどうですか?」

私は安心した。

「いいですよ。あとこのカフェはTさんのホテルに近いですよ、どちらでも都合の良い方で」と返信した。

夜になってから、電話がかかってきた。

T「暑いからビールを飲めるところに行きましょう。あなたの家で飲むのはどうですか?

 

今回ははっきりと聞こえてしまった。

 

炭「空調が壊れてる(本当)のでうちは無理です」と、口が勝手に喋ってくれた。

 

結局、検討の結果、Tさんのホテルのバーで飲むことになった。

 

Tさんは、ナチュラル3割増しタイプだった。今回はこちらも人工5割増しお見合い写真をバラ撒いているので文句は言えない。

 

Tさんは、こんなに暑いのに空調が壊れているなんてありえないので、ホテルの部屋を取ってそこで飲み、その後泊まるべきだと何度も何度も提案してくること以外は、まともに会話ができて頭の回転もよく、話してみると普通にいい人だった。

その提案を頂く度に私は大丈夫ですと被せ気味で即答していた。

 

Tさんは最近出張で行ったというアフリカのお茶をプレゼントしてくれて、私の外見をやたらと褒めて「最高で25歳までにしか見えない」と言ってくれた。まあ、Tさんが私の7歳下なので己を基準にするのであればそうだろうなと思った。

 

お見合いで分かったことは、Tさんはただただ穴があれば入れたかったらしく、入れられないのであれば用はないようだという事であった。

ここはインドなので、普通のことである。

 

当方にやる気が感じられないと判断したTさんは、1時間でお見合いを切り上げることにしたようだった。

Tさんはインド人なので絶妙に萎えさせる誘い方をしてしまうだけで、本来はスマートなジェントルマンなのでお会計をいつの間にか済ませており、帰りはタクシーに乗るまで送ってくれた。

 

私は、帰りのタクシーでTさんはやる気がすごくある方であったことを友人にメッセージで報告し、空調が壊れている家に帰宅した。

 

頂いたお茶は、クソまずかった。